12/15 全員へ
 「ペコ缶」1ヶ(Boss 無糖ブラック)を発見。
 誰も買取なければ、全員に税込み120×2=240円 罰金として課されます。
 買い取ったほうが、やった本人にとっても負担が少なくて済むのに、なにを考えてんだか?
 竹中さんへの報告から数日経った12月15日。
 またへこみ缶が1缶見つかったという報告が、連絡ノートにあった。
 例によってまた最後に「全員に税込み120×2=240円 罰金」という無茶なオチがついてた。
 しーなは、今回は目立つように「納得できません」と書いて書名を入れたのだけれど、17日になって、オーナーに横棒を引っ張られて、

「これはルールです。ルールを理解できていないような従業員がいるようなので、みんなで話し合ってみたら?」


 という、明らかに人を馬鹿にしたコメントが書き込まれていた。
『法律を理解できていないオーナーがいるようなので、きちんと勉強してみたら?』
 と書き込んであげようかかと思ったのは、とっても本心。
 ああでも、竹中さんに相談したんだし、顔を立てる意味でも竹中さんの出方を待たなくちゃ。
 ・・・ちゃんと調べてくれてるんだよね?


 18日は、竹中さんがオーナーたちと、定例のミーティングを行う日だった。
 毎週一回、発注や新商品のことで、本部の提案や今後の発注方針を詰めるために、竹中さんがやってきて、オーナーと奥さんと、従業員からは主力の倉沢さんと小畑さんが参加しているの。
 竹中さんが罰金のことについて話すならこの日だろうと、しーなは踏んでた。
 折りよく(?)、15日に発見されたばかりのへこみ缶が、「12/15発見」というメモを貼られて事務所の机の上に乗せられていたから、竹中さんが話を切り出しやすいだろうとも思ったんだ。
ぺこかん



 しーなはミーティングの間ずっとお店にでていたので、どういう展開になっているのか裏の様子を伺うことはできなかったのだけど、倉沢さんが、
「ミーティングが終わったあと、15分くらい事務所にこもって竹中さんがオーナーたちとなにか話をしていた」
と教えてくれた。

 竹中さんは帰りがけに、レジのカウンターの中にいたしーなに、小さく折りたたんだメモをこっそり手渡してくれた。
 周りに悟られないように、ゴミを捨てに行くついでにお店の外でメモの内容を確認したら、
『仕事が終わったら電話ください』
 携帯電話の電話番号があわせて書いてあった。


 そそくさと定時で仕事を切り上げ、ある程度お店から離れてから携帯電話で連絡した。
 忙しいのに、私からの連絡を待ってくれていたようで、竹中さんはすぐに電話にでてくれた。
 あれだけ、連絡ノートに罰金罰金としつこく書いてあるし、はっきりいってくれたのかと思っていたら、
『「罰金制は、従業員にプレッシャーを与えるからよくないですよ」とは言ったんですが、それ以上はまだ強く言えないんですよね』
 なんて、のんきな答えが返ってきた。
「労働基準法で、強制的に徴収できないことになってるんですよ?」
『え? そうなんですか?』

 ・・・脱力。


 大手フランチャイズのSVが。
 労働基準法を、きちんと知らないんだ・・・
 経営の基本的なことのはずなのに、指導するもなにも、知識すらないのではお話にならないよ。
 
 給料明細の操作についても、ストアコンピュータの勤怠記録画面はSVの権限では入れないから、調べるのは時間がかかる、ということだった。
 こんなにのんきでいいんだろうか。
 仮にも、フランチャイズとして看板を貸しているお店で、著しい不正が行われているのに。
 勤務時間の操作は調べるのに時間がかかるとしても、罰金に関してはオーナーが直筆で残した証拠が山ほどあるのに、正面から指導とかできないの?
 これが公になったら? 一般の人には、フランチャイズと各店舗の関係なんて漠然としか判らないんだから、一店舗の不正や違反は、全体のしてることと思われても仕方がないんじゃないの?
「万一、労働基準監督所にいって、指導を出してもらうようなことになったら、当然フランチャイズの名前も出ますよね?」
 というこちらの言葉には、

『それはまぁ、当然の権利ですし・・・。実際マスコミまでは動かないでしょうし・・・』

 ・・・危機管理意識が薄すぎる。
「フランチャイズの信用に関わるということであれば、対処するのが仕事ですから」 なんて言ってたあの勢いは、どこに行ったんだろう。
 それでも、引き続き調べてくれるとは約束してくれたけれど。
 しーなとしては、あまり過剰に期待しないで、竹中さんの調査の様子を見つつ、今の態勢をしばらく継続するしかなさそうだ。



 お店のみんなは、といえば、こっそり不平は言っているけれど、実際オーナーの暴走に対抗しているのはしーなと倉沢さんくらい。
 みんな影では威勢がいいけど、いざとなると黙ってしまうので、何を考えているのかわからない、というのが本音。
 声をあげて対策を練っているこちらのほうが感覚がおかしいのかな? と思わされるくらい。

 あまりにもオーナーに都合のいい羊さん揃いで、歯がゆいどころか、なんだか少し怖いくらいだった。